弁護士 村田浩治
1 スキマバイトの隆盛
タイミーという名前を聞いたことはありますか。タイミーに代表するスキマバイト(スポットワーク)は、コロナ禍後の人手不足を背景に急速に広がりました。2022年設立のスポットワーク協会によれば2025年5月時点で求職登録者数は延べ3400万人に達したそうです。総務省によると日本の働く人の人口は6873万人ですから、スキマバイトの登録者数の規模はとても大きくなっています。スキマバイトは働く人・就労先事業者・紹介事業者の三者が関係しています。紹介事業者はキャンセル歴、遅刻、評価などの個人情報を把握して管理し、優秀な人材を囲い込んで就労先に営業します。その構造は派遣そっくりなのです。
2 人手不足が追い風に
スキマバイト拡大の背景には深刻な人手不足があります。飲食、宿泊、小売、物流など、繁閑差が激しく時間単位での調整が必要な業界では、雇う側は社会保険料負担なしで人手が補えるスキマバイトを使いたくなります。働く側も「好きな時に働ける」、「すぐにお金になる」から便利と言うわけです。近年では人手不足が顕著な介護・保育・医療分野で専門仲介業者が増えておりスキマバイトが活用されています。各地の地方議会では保育園、学童保育や介護施設等で、単発スキマバイトの人員を配置していることが発覚し、それで公的責任が果たせるのかといった質問が相次ぎました。
3 働く者の貧困
働く側はすぐにお金を貰えて便利ですが、本当なら正社員で十分な賃金を貰っていれば、スキマバイトは必要ありません。スキマバイト拡大には、働く人の貧困化という大きな要因があります。就職氷河期世代(現在45歳から54歳)は不本意な非正規の割合が24.6パーセントに達し、また大学生の貧困化が進行し、非正規率は2012年の32.3パーセントから2022年には41.9パーセントに増加しました。高齢者でも非正規で長時間働く人が増えました。学生・若年・高齢者、正規でも低賃金という方々がスキマバイトを利用しています。
4 国や自治体が後押し
スキマバイトが広がった背景のもう一つの要因には労働行政がこの日々職業紹介事業にとても甘い対応をしていることがあります。また地方自治体が競ってタイミー等と連携協定を締結しスキマバイト事業を後押ししています。
スキマバイトのビジネスモデルである日々職業紹介と労務管理の代行という手法は2012年に成立しています。禁止された日雇い派遣の抜け道のように利用されてきました。本来は、スキマバイトは日雇い派遣の脱法として厳しく規制されるべきでしたが、安倍政権下で実質的に野放しだったのです。公共職業安定所に代わる民間の職業紹介として、スキマバイトを国が保護したと言ってもいいでしょう。
5 民間職業紹介の責任
公共職業安定所の目的は安定した雇用の実現です。
しかしスキマバイト事業者は「仲介するだけ」で、闇バイトの温床となっているとの問題が指摘されています。日雇い派遣と同じ構造で、雇用主が曖昧で、民間職業紹介事業者に求められる厳しい義務(労働条件明示、個人情報管理、受理義務、帳簿備付け等)が果たされているのかという疑問も呈されています。
社会保険加入なし、賞与や昇給なし、雇用保険なしというセーフティネットが弱いまま、スキマバイトが広がれば、働く側の分断や対立、低労働条件が横行しかねません。
しかし、仕事を紹介してもらえるスキマバイトでは、トラブルがあっても仕事が紹介されなくなっては困るので、働く側は泣き寝入りしてしまいます。弁護士に相談するケースは少ないのです。
職業安定法違反、派遣法違反、労働基準法違反、労災保険法違反、社会保険法違反が拡大する危険な兆候は決して軽視してはいけません。