堺総合法律事務所

 

事件ファイル


宝塚歌劇団事件

弁護士 井上耕史

2023年9月30日、宝塚歌劇団の現役劇団員(入団7年目・そら宙組所属)であった25歳の女性(被災者)が亡くなった。 

 

「ちよう長の期」の長

 

 当時、宙組には、約25名の上級生(入団8年目以上)、約40名の下級生(入団7年目以下)が在籍していた。入団7年目の劇団員は、下級生の中での最上級生であり、「長の期」と呼ばれる。被災者は、「長の期」の長=下級生全体の責任者の立場にあった。 

 

常軌を逸した長時間労働

 

 宙組では、宝塚大劇場での23年9月29日から11月5日までの本公演(組員全員が出演)、10月19日の新人公演(本公演と同じ歌劇を下級生のみで演じる)が予定されており、8月16日から本公演の稽古が始まった。

 「長の期」は、自らの役の稽古・出演に加えて、下級生全体のまとめ役として上級生からの指示に従い下級生の指導・援助を行う。さらに、新人公演に向けて、役柄の配置やシナリオ作成に関する演出家の補佐、出演者の衣装の手配などの事務も行わねばならず、その負担は重かった。

 「長の期」は、通常、1つの組に5~8名が在籍して任務を分担するが、当時、宙組の「長の期」は、被災者を含めて娘役の2人しかいなかった。被災者は、本来の半分にも満たない人員で、慣れない男役に関するものも含めて、膨大な業務負担を強いられた。

 被災者は、連日1日3時間睡眠、休日無しでの活動を余儀無くされた。亡くなる直前1か月間の時間外労働は250時間超と推計される。

 

劇団内のパワハラ

 

 被災者は、劇団内における厳しい上下関係を背景とした数々のパワハラを受けていた。さらに23年8月の稽古開始以後、パワハラが重なった。

 被災者に対して劇団が膨大な業務を課したこと自体がパワハラである。さらに、被災者が過重な業務をこなしきれないことや下級生の個々の不備について、上級生は被災者に対し厳しい叱責を繰り返した。これら上級生の行為も、業務上の必要性がないか、その態様が相当ではないものであって、パワハラに該当する。

 

阪急・劇団との合意書締結

 

 遺族側は、阪急・劇団側に証拠と意見書を提出して、長時間労働・パワハラと安全配慮義務違反を認めるよう求めてきた。

 当初、阪急・劇団は、パワハラを否定していたが、遺族が毅然とした対応を貫き、世論の後押しもある中で、徐々にパワハラを認める方向へと態度を変え、昨年3月28日、合意書締結に至った。

 内容は、①阪急・劇団は、被災者に対し、長時間活動による過重負担とパワハラ(14項目)による心理的負荷を与えたこと、安全配慮義務違反があったことを認めて、遺族に謝罪する、②阪急・劇団は、健康な職場づくりを約束する、③阪急・劇団は、遺族に対し、慰謝料等解決金を支払う、というものである。

 調印の席に阪急阪神HDの角会長が出席して遺族に謝罪すると共に、パワハラ行為の関係者個人の多くから謝罪文が提出された。

 本件は広く報道され、芸能分野で働く人々の過酷な労働実態を明らかにした。

 本件の合意が、これらの人々のいのちと健康が守られる社会への礎となることを願ってやまない。

 


 
 
 
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