弁護士 脇山美春
1 生活保護基準とは
憲法25条より、誰しも健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が保障されています。この権利の保証のため、働けない・収入がない方は生活保護を利用することが認められています。生活保護を受けられるかどうか、及び具体的な保護費を決める基準が「生活保護基準」です。
生活保護基準は、生活保護を利用する人だけの問題ではありません。生活保護基準は、最低賃金や社会保険料の非課税世帯の基準など、様々な社会保障にかかわる基準決定にあたり参考にされています。生活保護基準の不当な引き下げは、国民生活の底を抜かすことになります。
2 本件改訂の内容と最高裁の判断
生活保護基準をどう定めるかは、厚生労働大臣の裁量にゆだねられています。ただし、「統計等の客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性」に照らして「判断の過程及び手続に過誤、欠落」があってはならない、とされています。
しかし、本件改訂においては、専門家の検討を一応経た引き下げ(ゆがみ調整)と、専門家の検討を経ずに物価下落だけを理由として行われた引下げ(デフレ調整)の2つがなされ、年間で総額670億円もの保護費が削減されることになりました。
最高裁は、ゆがみ調整は違法とはしませんでしたが、デフレ調整について、物価下落だけでは保護を利用する世帯の需要を把握することはできないとして、物価下落だけを理由に保護費を引き下げる内容の改定をしたことは違法だとして、本件改訂の取消しを認めたのです。
3 判決の意義
生活保護基準改定そのものが最高裁で違法と判断されたことは、これまでに一度もありませんでした。また、年間で670億もの保護費削減をしたことが違法と判断されたのですから、社会的な影響ははかり知れません。さらに、本件改訂は、当時の生活保護バッシングを背景に自民党が政権公約として生活保護費の10%削減を掲げ、その政権公約に基づき実施されたものでした。自民党政治に最高裁がNOを突き付けた、という点でも、非常に画期的です。
4 最後に
今後、本件改訂が違法だと最高裁で判断されたことをふまえて、国が謝罪し、本来であれば受けられたはずの保護費を生活保護利用者に支払わせることが必要です。
しかし、不正受給の横行、外国人の優遇など、事実に基づかない生活保護バッシングが横行しています。これを背景にしてか、謝罪も保護費支給も前に進んでいかない状態になっています。
事実に基づかない生活保護バッシングに惑わされることなく、すべての人が「健康で文化的な最低限度の生活」を送れる社会の実現を目指すべきです。