弁護士 脇山美春
私の所属する「生活保護基準引下違憲訴訟原告ら弁護団」が、2021年2月22日、大阪地裁で勝訴判決をかち得ましたので、そのご報告をします。
1 事案の概要
2013年、厚生労働大臣は、生活保護法による保護基準を総額670億円も減額する内容の改訂(本件改訂)を行いました。そのため、96%の生活保護利用世帯に対し、平均で6.5%、最大で10%もの保護費を減額する内容の変更決定(本件処分)が行われました。
これをうけて、全国で1000人の原告が立ち上がり、2013年、全国各地裁に、憲法25条、生活保護法3条、8条2項に違反する違憲・違法なものであるとして、本件処分の取り消しを求めて訴訟が提起されました。
2 判決の概要
大阪地方裁判所(森(もり)鍵(かぎ)一裁判長)は本件の争点を、「本件改訂にかかる厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱・濫用があり、処分が生活保護法3条、8条2項に違反したといえるか」と設定しました。
そのうえで、厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱・濫用の有無は、「最低限度の生活の具体化にかかる判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無」から判断されるとし、その判断にあたっては、判断過程での「統計等の客観的な数値などとの合理的な関連性や専門的知見の有無等について審査される」と言及しました。
そして、本件改訂では①特異な物価上昇の見られた平成20年を基準として物価の下落率を考慮し②厚生労働省が独自に算定した生活扶助相当CPIを前提として物価の変化率を算出して、生活扶助基準額を一律に4.78%減額する調整(デフレ調整)を行っているが、①平成20年を基準としたこと②生活扶助相当CPIはいずれも専門的知見を欠き、統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠くものであるから、①②をもとに生活扶助基準額を減額した判断の過程及び手続には、「最低限度の生活の具体化という観点から見て」過誤、欠落がある、と認定し、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があって違法だと判断し、本件処分を取り消す判断を下したのです。
3 さいごに
10月29日現在、原告勝訴判決が出たのは大阪地裁のみであり、全国で見ると1勝4敗の状況です。大阪地裁判決も、国側の控訴により、現在高等裁判所にて審理が係属しています。
生活保護費の切り下げは、国民生活の底を抜かすことになります。ぜひ皆様、この裁判にご注目いただくとともに、生活保護をもっと使いやすくする運動にご参加いただければと思います。