弁護士 辰巳創史
2013年5月24日,「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)が成立し,2016年1月からマイナンバーの利用が開始されました。
政府は,「マイナンバー制度は,行政を効率化し,国民の利便性を高め,公平・公正な社会を実現する社会基盤です。」と説明していますが,利用開始から5年が経過して,何か便利になりましたか?
行政が効率化した,国民が便利になった,公平・公正な社会が実現した,という実感はまったくありませんよね。
それもそのはず,マイナンバー制度は,もともとそんなことを目的としておらず,行政の効率化・公平化の名のもとに,社会保障の負担を減らし,そのために国民を選別するための制度だからです。
マイナンバー制度を導入することにより,その保管場所の確保や保管のためのセキュリティを確保するために,これまで以上に事務負担が増え,費用面の負担が増加しています。さらには,マイナンバーを記載することにより,本人確認書類を準備しなければならず,行政機関においても,マイナンバーの記載内容が正しいかどうかの確認,本人確認等を行わなければならず,国民等の利便性の向上に何ら資するところはありません。
他方で,マイナンバー制度により,国民一人一人の所得,疾病や治療内容,購買履歴など膨大な個人情報が容易に国に監視・把握されることになります。また,膨大なマイナンバー付きのデータベースが行政・民間で作成されることになりますが,情報漏洩やなりすましによる被害も危惧されます。
2021年5月21日に可決成立したデジタル改革関連法は,政府の府省庁を横断し地方自治体との連携を密にしてセンシティブ情報を含む個人情報を,首相を長とするデジタル庁が中核となって一元的に管理し,マイナンバーと紐付けるものです。
2021年6月16日に強行採決により可決成立した土地利用規制法も,「安全保障に寄与すること」を目的に広く市民を調査・監視の対象とするものです。
マイナンバー法とあわせて,これらの法律により「監視社会」が容易に実現する危険性がさらに高まっています。
2015年12月に私も代理人となり提訴した,マイナンバー違憲訴訟(プライバシー権侵害を理由とする差止及び国家賠償)は,大阪地裁で不当判決を受け,現在大阪高裁でたたかわれています。
「監視社会」化を阻止し,国民のプライバシー権を保護するために,今後も力を尽くしていきます。応援してください。