弁護士 村田浩治
1 事件のあらまし
東リ株式会社(ご存じのとおりクイズ番組「アタック25」のスポンサー)は、100年以上の歴史ある一部上場企業です。しかし伊丹工場巾木(部屋の床と壁の間にあるなくてはならない)の製造ラインと接着剤をつくる化成品ラインは、長年にわたり下請会社(社長1人と工場で働く従業員だけの零細企業)の社員が20年以上前から担い始め徐々に数を増やしていき、事件が勃発した時は18名が働いていました。下請社員には賞与もなく年収300万円余り(東リ社員の半分程度)でした。請負会社の社長のパワハラがきっかけで労働組合が誕生、組合執行部が割増賃金問題のみならず、東リの偽装請負問題へと活動をパワーアップした途端、東リは請負から労働者派遣へ切り替えを計画し、零細企業から大手派遣会社に乗り換えようとしました。派遣に切り替えるということは偽装請負を認めたも同然でした。労働組合は直用要求で団体交渉を求めました。
2 労働者派遣法40条の6第1項5号に基づく請求と不当労働行為
労働組合は、改正労働者派遣法40条の6を主張しました。これは民主党政権時代の2012年、偽装請負の派遣先に雇用責任を負わせる規定です。労働組合は東リに責任を果たせと迫りました。東リは団体交渉を拒否、数日後、突然、多数の組合員が脱退、残った5人の組合員だけが新しい大手派遣会社に採用を拒否され工場から追い出されました。
3 不当な一審判決を乗り越えた勝利
2019年、兵庫県労働委員会は不当労働行為は認めたものの東リの雇用責任は判断せず、一審の神戸地裁も2020年3月「偽装請負」であったとは言い切れないという不当判決を下しました。5人は、心が折れそうになりながら、大阪高等裁判所に控訴しました。
そして1年半経過した2021年11月4日、大阪高裁は一審を取消、東リの工程が偽装請負であったことを認定して逆転判決、5名の原告が東リの社員であり4年半分の賃金合計約7000万円を遡って支払うよう命じました。
2008年に起きた派遣切りから13年、その後派遣法が改正され、東リの5人が追い出されてから4年8ヶ月、ようやく偽装請負受け入れ企業の責任が認められました。まだ最高裁が残っています。この勝利を確定させるため引き続き応援をお願いします。