堺総合法律事務所

 

事件ファイル


NHKは虎の尾を踏んだ

弁護士 辰巳創史

 2017年の事務所ニュースで,「NHKの受信料を払っていますか」とのタイトルで,奈良のMさんの裁判を紹介しました。

 その裁判は,「安倍チャンネル化」したNHKに対して抗議のつもりで受信料の支払いを停止していたMさんに対して,NHKが受信料の支払いを請求した訴訟です。放送法4条1項は,放送事業者は,放送番組の編集に当たっては,政治的に公平でなければならない,報道は事実をまげないでしなければならない,意見の対立している問題については,できるだけ多くの論点を明らかにしなければならない等と規定しています。籾井氏就任後のNHKの特にニュース報道の姿勢は,明らかにこの放送法4条1項の義務に違反しています。そこで,Mさんは裁判で,NHKが放送法4条に違反する放送をするのであれば,対価としての受信料の支払いを拒むことができるはずだと主張して争いました。

 その裁判は,残念ながら1審で敗訴しました。2審の大阪高等裁判所は,勝訴しましたが,それはMさんが未払いだった受信料を敗訴後に支払ったから,NHKが請求する理由がなくなっただけで,こちらの主張が認められたからではありませんでした。

 そこで,今度は,Mさんを含めNHKに受信料を支払っている視聴者126名が原告となり,NHKに対し,放送法4条を遵守して放送する義務の確認を求める集団訴訟を提起しました。

 NHKは虎の尾を踏んだのです。

 このような請求を掲げている訴訟は全国で初めてであり,本件訴訟は,国民の知る権利と民主主義の発達に寄与する公共放送の在り方を正面から問う歴史的な裁判として,次第に注目を集めるようになりました。

 憲法学者,行政法学者,社会学者など専門家の協力も得て,原告らの主張も理論的に強化されていきました。

 2020年2月13日には,証人尋問が行われ,相澤冬樹さん(元NHK記者),小滝一志さん(元NHKディレクター),稲葉一将教授(行政法学者),須藤春夫名誉教授(社会学者),永田浩三教授(メディア社会学)という錚々たるメンバーが,NHKには放送法4条を遵守する法的義務があるとの証言をしました。

11月12日に判決が言い渡されましたが,残念ながら,確認請求については,却下されてしまいました。「NHKのニュース報道番組が,放送法4条ないし国内番組基準に沿った放送がなされていたといえるのかについては,疑問の余地が全くないわけではない」と判示しているにもかかわらず,却下したのは,不当というほかありません。引続き,控訴審で頑張ります。

 

 


 
 
 
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