堺総合法律事務所

 

事件ファイル


たかがひげと言うなかれ 大阪市交通局のひげ裁判で原告の勝訴判決が確定

弁護士 村田浩治

 これまでニュースで紹介してきた大阪市交通局(現在は大阪メトロ株式会社)の地下鉄運転手ら二人が、ひげを剃らなかったことを理由に人事考課を2年続けてさげられた扱いを受けたことから、大阪市に慰謝料支払を求めた事件が確定しました。大阪地裁は2019年1月16日、大阪市に対し慰謝料など1人22万円の支払を命じ、大阪高裁が同年9月6日に大阪市の控訴を棄却、大阪市は9月20日に上告を断念しました。

 原告二人の闘いは、2012年5月、維新市政の下で職員を締めつける「大阪市職員基本条例」制定に連動し交通局が「身だしなみ基準」を作り「髭は全部そること」と定め「指導に従わないときは、考課に影響する」との運用が始まったことから始まりました。

 2012年9月に大阪弁護士会の人権救済申立をしましたが、2013年と2014年の人事考課を現実に低くされ、髭をそれば評価を戻すと言われたり、上司から退職をほのめかされる等しました。大阪弁護士会は2016年1月に人権侵害にあたると勧告しましたが、大阪市は改めず、免職の危機もあり2016年3月、提訴に踏み切りました。

 「みだしなみ基準」は、今は、民営化で廃止されましたが、女性は「原則として化粧せよ」との規定もある等、差別も含む問題の多いものでした。裁判所は身だしなみ基準は、あくまで任意のお願いを記載したものにとどまるとよむべきものであると解釈し、身だしなみ基準そのものは有効としましたが、人事評価を下げた行為についての被告の主張は認めず、個人の私的自由への侵害にあたるとして違法性を認め、慰謝料支払を命じたのです。

 判決をきっかけに、テレビのバラエティ番組等では「ひげはいいと感じるかどうか」というやりとりがあったり、「髭で裁判とは日本は平和だ」と当事者をからかうようなツィートもありました。事件は、たかだか髭を生やすための裁判ではありません。女性の化粧を強制したり、眼鏡を禁止したりという不合理な規則にとらわれず、働く現場での労働者が個人的の自由を最大限保障されるべきということを裁判所に認めさせた働く者の誇り高い裁判です。個人の自由を制限する日本社会に問いかけた裁判でもあります。しかし大阪市は反省していません。原告らの闘いはまだ続きますので今後とも応援をお願いします。


              


 
 
 
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