堺総合法律事務所

 

事件ファイル


自治会館「乗っ取り」を許さない―大阪高裁で住民側全面勝訴

弁護士 井上耕史

自治会館「乗っ取り」事件

 

 向ヶ丘町自治会(堺市西区)は1933年以来,自治会員の共有財産として自治会館を保有してきたが,当時の法律では自治会は法人になれず,自治会名義で登記ができなかった。

 

 そこで,1966年,会館建替えを機に,自治会が「財団法人向ヶ丘町自治会館」を設立して財団名義で土地建物を登記した。財団の定款(規約)には「向ヶ丘町自治会」の区域内住民のために自治会館を設置・管理することが明記されており,財団役員・評議員は全員自治会員であった。自治会館は文字どおり自治会活動のために利用されてきた。

 

 ところが,2007年にA氏が財団理事長に就任すると,自治会の意向を無視した会館運営を行うようになった。そして,財団役員・評議員から自治会関係者を排除し,定款を変更して財団の目的から「向ヶ丘町自治会」を削除し,20124月に「一般財団法人向丘文化交流センター」への移行を強行した。A氏の行為は,歴史的事実を否定して自治会館を私物化するものであった。

 

住民側全面勝訴の高裁判決

 

 2013年以降,「自治会館を自治会員にとり戻そう」という住民運動が進められた。2014年1月に自治会が提訴した所有権確認訴訟は敗訴確定となったが,その訴訟を通じて,A氏が20101月に評議員数を大幅に減らす定款変更を行い,それに必要な評議員会決議を捏造するなど,違法無効な財団法人運営をしていた事実が判明した。そこで,20163月に「①2010年1月以降,正規の評議員会は開催されず,定款変更も一般財団法人への移行もしていない,②201512月に元の定款に基づく正規の評議員会を開いて自治会員から新しい理事(清算人)を選任したのでA氏は理事ではない」ことの確認を求める訴訟を提起した。勝訴すれば,自治会員の手で財団の清算を進め,自治会に自治会館の登記名義を移して自治会が管理することができるようになる。

 

 昨年7月30日,大阪高裁は,評議員会決議捏造の事実を認定し,住民側の請求を全部認める判決を言い渡した。敗訴確定判決を乗り越えての逆転全面勝訴である。現在最高裁係属中であるが,この判決が覆ることはないと確信している。

 

 実体と登記のズレが原因となっての紛争は各地で散見されるところであり,全国的にも,この判決の意義は大きい。

 

 


               

 


 
 
 
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