弁護士 村田浩治
「働き方改革」に異議あり
一、働き方改革とは
昨年七月六日「働き方改革一括法案」が強行採決された。
与党は、好景気の「生産性向上の成果を分配するために働き方改革を行う」という、好景気の実感はないが成立後、安倍総理は「長時間労働を是正していく。『非正規』という言葉を一層して、子育て、あるいは介護しながら働くことが出来るように、多様な働き方を可能にする」とぶち上げた。
この法案が成立したことで長時間労働が是正され、非正規の待遇の改善が図れるとはとても思えない。厚労省は写真のようなリーフを作り事業主向けに「働き方が変わります!」と打ち出して、「時間外労働の上限規制が導入されます」「有給休暇の確実な取得が必要です」「正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇差が禁止されます!」と盛んに宣伝をする。宣伝とおり「働く環境が改善される」と期待を持っている人も多いだろう。安倍首相を支持する人たちにmは、憲法はともかく、働き方改革は評価できると思っている人がいるかもしれない。国が長時間労働を是正しよう、非正規労働者の待遇格差を改善しようと呼びかけることはいい。しかし、私は、安倍首相の演説を信用出来ない。それは、派遣労働の前科があるからだ。
二、「派遣法改正」のうそ
二〇一五年九月、強行採決された労働者派遣法の改正案の時も安倍首相は「今回の改正案では、正社員を希望する派遣労働者について、その道が開けるようにする」「派遣期間が満了した場合、正社員になったり、別の会社等で働き続けることができるようにする」と打ち上げた。しかし、実際には罰則なしの措置義務に過ぎない法案ができあがり、実効性は与えられなかった二〇一八年に沢山の派遣切り相談が寄せられた。
三、残業時間の上限規制?
今回の一括法案で最も嘘くさいのは、残業時間の規制であろう。
過労死防止のための残業時間規制は、例外的な残業時間の上限を最大一〇〇時間未満まで許容しているに止まり、従前上限45時間という行政の指導基準からも後退している。
四、同一労働同一賃金?
非正規社員の格差是正は二〇一八年に最高裁判決も出たこともあり注目を集めている。厚労省は、二〇一八年一二月二八日に同一労働同一賃金ガイドラインを発表し手当ごとに格差が禁止規定違反となる具体例を示している。しかし、例えば「賞与が業績に対する貢献に応じて支給される場合は、契約社員やパート、派遣労働者にも賞与を与えなければならない」というガイドラインがある。一見すると格差が是正されると期待する。しかし、これだけだと、同じ仕事をしていれば直ちに同じ貢献度となり同じ賞与が貰えるのかとなると明らかではない。安倍首相は盛んに「同一労働同一賃金の実現」というが日本の法律は、「同じ仕事をすれば同じ賃金をという原則」は法律で定めていない。使用者が格差を設ける理由が説明出来れば格差は許されてしまう。
五、働く者の声で正そう
政府の法案の嘘があるからといって、声を上げなければ何も良くならない。
安倍首相を初めとして盛んに建前では長時間労働を否定し、格差を正そうという。国の政策の建前を実効性あるものにするのは、やはり働く国民の声と運動である。二〇〇八年派遣切りが政権交代を生んだように、法律や労働組合に声を寄せ運動することが今ほど必要な時はない。労働組合法はまだ健在だ。働き方改革を実効性のあるものにするために事務所に声を寄せて欲しい。