弁護士 井上耕史
安倍政権は,「働き方改革」と称して労働法制改変を進め,昨年9月8日付で厚生労働大臣から「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」が出されました。今度の通常国会には法案が提出されるでしょう。
この「働き方改革」法案は,労働基準法,労働契約法,派遣法,パート労働法等,全く異なる目的の8つの法律の改正を一本の法律で行うもので,憲法違反の安保関連法(戦争法)の時と同じやり方です。
政府は「同一労働同一賃金」「長時間労働の是正」と,労働者に良い改革のように言っていますが本当でしょうか?
かけ声だけの「同一労働同一賃金」
正規・非正規の賃金格差を是正することは急務であり,職務内容が同じなら同じ賃金を,という「同一労働同一賃金」の実現が必要です。ところが,法案では,基本給や賞与についての格差は手つかずのまま。派遣社員については,派遣会社との労使協定によって派遣先企業と格差をつけることを容認しています。結局,「同一労働同一賃金」を実現するものとはなっていません。何よりも不安定雇用は全く改善されません。
「長時間労働是正」とは真逆の労働時間規制改悪
法定労働時間は週40時間・1日8時間ですが,現行法では労使協定があれば青天井に働かせることも可能です。法案では,労使協定でも超えてはいけない時間外労働の上限(罰則付き)を設けるとしています。罰則付上限規制は必要ですが,中身が大問題。法案では,1か月100時間未満,月平均80時間以内(年間で960時間)まで時間外・休日労働をさせることも可能です。しかも,新製品研究開発,建設,自動車運転,医師については適用除外・猶予されます。これでは逆に過労死ラインまで働かせる企業にお墨付きを与えることになりかねません。
さらにとんでもないのは,労働時間規制外しがセットになっていることです。
一つは裁量労働制です。いくら働いても労働時間を一定の時間にみなしてしまう制度で,例えば実際には12時間働かされても8時間働いたとみなすこともできます。現行法では対象労働者はごく一部ですが,法案では対象を大幅拡大して,係長・班長クラスや法人営業担当など多くの労働者に導入可能にしようとしています。
もう一つは高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)です。一定年収以上の労働者については労働時間規制を適用しない制度で,いくら働かせても残業代はありません。法案では年収約1075万円以上が適用対象であると説明されていますが,経団連は年収400万円にすべきと言っており,ひとたび導入されれば年収要件の引下げは簡単にできてしまいます。
労働時間規制改悪であり,「残業代ゼロ」「定額働かせ放題」「過労死促進」法案というほかありません。
まともな働き方実現のために
全体として,政府の「働き方改革」法案は,名称とはアベコベの「働かせ方改悪」というほかなく,ストップをかける必要があります。そして,実効性ある労働時間上限規制,勤務間インターバル制度,残業しなくても生活できる賃金制度など,普通に働いて普通に暮らせるための制度導入の世論を大きくしていくことが大切です。