弁護士 平山正和
■9条「加憲」のごまかし
昨年5月3日に安倍首相が、唐突に、憲法9条1項、2項をそのまま残して、自衛隊の存在を明記する「加憲」を提案した。2020年までに新憲法を施行したいという。
1 自衛隊は国民から支持されており、命を張る自衛隊員に対して違憲であるというのは無責任だなどと言って、単に自衛隊員を尊重するために自衛隊を明記して合憲化するにすぎないかのようにいう。憲法9条1項、2項によって、創設以来戦争をせず、災害救助活動をしてきたから国民が支持しているに過ぎない。また、自衛隊員に海外で戦争する役割を付加することとなるから、かえって自衛隊員の命を危険にさらすこととなる。法律論として、安倍首相らしい情緒的で幼稚かつ浅薄な論であり、俗耳に入りやすいごまかしである。
2 戦力不保持、交戦権否認を規定した2項と自衛隊「加憲」とは決定的に矛盾するから、2項を削除する必要が生じる。「加憲」は9条改憲の第1段階である。第2段階で、2項削除、軍隊設置をする改憲をもくろんでいるが、このことを国民に隠している。
3 安倍首相が考えだしたことではない。安倍首相のブレーンである「日本会議」が、2項を削除して国防軍を創設する自民党改憲草案ではいつまで待っても国民の支持が得られないために、自衛隊「加憲」2段階論を提案しており、それを受けたものである。「日本会議」がバックにあることを隠蔽している。
4 高等教育無償化や緊急事態条項などを一緒に提案することによって世論を取り込もうとしている。
■9条「加憲」の危険性
1 今や、戦争法制によって、自衛隊は米軍に従属し一体化して、海外で戦争ができる違憲の軍隊に変貌した。自衛隊「加憲」はこの軍隊に憲法的公共性を付与することとなる。
2 9条は、戦争放棄に加え、2項で、戦力=軍隊不保持、交戦権の否認を規定し、前文において、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とうたって、戦争と軍隊による紛争解決ではない、平和的紛争解決の道を示し、徹底した平和主義を定めているからこそ、世界から称賛され、ノーベル平和賞の候補にあげられる所以である。自衛隊「加憲」によって、この誇るべき平和主義が根本から覆される。戦前への回帰である。
3 戦力不保持、交戦権否認を規定した1項、2項と軍隊に他ならない自衛隊「加憲」条項とは決定的に矛盾する。相いれない条項が並ぶ異常な憲法となる。しかも、後で規定された法律が優先するから、1項、2項は空文化する。現状を追認するだけではない。
4 自民党内で、フルスペックの集団的自衛権の行使ができる自衛隊を規定する案が検討されている。単に自衛隊を明記するだけではない。
5 自衛隊「加憲」は、自衛隊に憲法的公共性を付与することとなるから、これまで自衛隊に付されていた制約が取り払われて、名実ともに軍隊に変貌する。そのことにより、徴兵制・徴用制の合憲化、自衛官の軍事規律の強化、軍事機密の横行、軍事費の増大、産軍複合体・軍学複合体の形成の本格化など、様々な重大な軍事的波及効果が生じる危険性がある。
■9条「加憲」を阻止するために
安倍首相のお試し改憲がことごとく失敗に終わった後、衆参で3分の2を確保している今こそ本丸である9条改憲に手を付けようとするものである。与党内からも異論がでていること、国民投票で過半数を得なければならないという厚い壁があること、70年以上にわたって9条を宝のごとくまもり続けた国民の平和への願いが強いこと、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が3000万署名を呼び掛けて国民的運動が展開されていること、など、安倍9条改憲を阻止する条件はあるし、阻止しなければならない。