堺総合法律事務所

 

事件ファイル


今こそ「まともな働き方」を実現しよう

弁護士 井上耕史

 二度の電通過労自殺事件に代表される正社員の長時間労働,その一方で派遣・パートなどの非正規雇用による低賃金と不安定雇用,いずれも深刻な社会問題となって久しくなります。安定した雇用,長時間労働なし,正規・非正規の格差なし,そんな「まともな働き方」を労働のルールにする必要があります。

安倍政権の「雇用破壊」政策

 しかし,安倍政権が進めてきたのは,労働者の願いとは真逆の「雇用破壊」でした。 一昨年9月には労働者派遣法を大改悪して派遣先企業が3年で労働者を入れ替えながらいつまでも派遣を使い続けることを可能にしました。「正社員ゼロ」「一生涯派遣」促進法です。
 昨年5月には労働基準法改悪案を国会に提出しました。どれだけ働いても残業代の出ない労働者を大幅に拡大するものです。これが成立すれば「残業代ゼロ」「定額働かせ放題」となり,長時間労働による過労死などの被害が増えるでしょう。
 さらに,「解雇の金銭解決制度」の導入を推進しています。これは解雇が無効な場合でも雇用主が一定の金銭を支払うことで雇用契約を解消できるもので,「解雇自由化」制度です。これが導入されれば,雇用主による解雇が横行する上,労働者も解雇を恐れてモノが言えなくなり,長時間・過重労働やパワハラが増えるおそれがあります。
 
  「働き方改革」ならぬ「働かせ方改革」

 安倍政権は,昨年の参院選直前の6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」において,「働き方改革」が必要であるとして,「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」「長時間労働の是正」と言い始めました。言葉だけなら,これまで労働側が主張してきた内容とソックリです。
 その理由は,安倍首相が執念を燃やす憲法改悪のためです。憲法を変えるには衆参両院で3分の2以上の議席を得る必要があります。これまで「アベノミクス」と称して行った経済政策がことごとく失敗に終わり,選挙対策のために,長時間労働是正と非正規労働者の待遇改善によって経済成長を実現する,と言うほかなくなったのです。
 しかし,安倍政権の「改革」は経済成長の手段として打ち出したに過ぎず,労働者の人権や国民の暮らしを考えているわけではありません。財界目線の「働かせ方改革」です。現に,安倍政権はこれまでの雇用破壊政策を撤回していません。安倍首相を議長とする「働き方改革実現会議」のメンバーを見ても,労働側代表は一人だけ,大半は財界の人々です。財界側は労働者保護のための規制強化に強く反対しています。

  「まともな働き方」を要求する国民の声を多数に

 安倍政権に任せても「まともな働き方」が実現できないのは明らかです。しかし,安倍政権も長時間労働是正・非正規格差改善と言わざるを得なくなったのが重要です。私たちの側から,深刻な職場の実態を明らかにし,「まともな働き方」を実現する法制度要求をまとめて政権に突きつけることが必要です。
 既に野党四党(民進・共産・自由・社民)が,残業時間の上限規制,次の勤務時間まで一定の休息時間を設ける「インターバル規制」の導入,労働時間の把握・記録義務,罰則強化などを内容とする「長時間労働規制法案」を国会に提出しています。私が所属する日本労働弁護団でも非正規雇用導入規制・不利益取扱い禁止等の「立法提言骨子案」を発表しています。安倍政権が労働時間規制改悪と解雇自由化を撤回するのは当然です。 さらに,野党が「まともな働き方」の実現を公約にして,野党共闘を成功させることも大切です。


               

 


 
 
 
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