弁護士 辰巳創史
突然ですが,皆さんはNHKの受信料を払っていますか。
Mさんは,NHKと放送受信契約を締結して,これまで受信料を支払ってきましたが,籾井氏がNHKの会長に就任してからは,NHKの放送内容に疑問が生じて,受信料の支払いを停止しました。
籾井氏は,NHK会長就任時の記者会見で,「(従軍慰安婦問題について)戦争国なら,同じような制度はどこにでもあった」「(特定秘密保護法について)国会を通ってしまったのだからカッカしても仕方がない。これが必要だと政府が説明しているのだから,様子を見るしかない」「(国際放送での領土問題の扱
いについて)政府が右を向けという時にNHKは左を向くことができない」と発言しました。
Mさんは,「安倍チャンネル化」したNHKに抗議するつもりで,受信料の支払いを停止したのですが,4万円あまりの未払い受信料を支払えとの訴訟をNHKから起こされてしまいました。
放送法4条1項は,放送事業者は,放送番組の編集に当たっては,政治的に公平でなければならない,報道は事実をまげないでしなければならない,意見の対立している問題については,できるだけ多くの論点を明らかにしなければならない等と規定しています。籾井氏就任後のNHKの特にニュース報道の姿勢は,明らかにこの放送法4条1項の義務に違反しています。
そこで,Mさんは裁判で,NHKが放送法4条に違反する放送をするのであれば,対価としての受信料の支払いを拒むことができるはずだと主張して争いました。
4万円あまりの裁判ですが,重要な裁判です。Mさんに6人も弁護士がついて,本格的に論争しようとしましたが,驚くべきことに,裁判官はたった2回の弁論で審理を強引に結審させてしまいました。怒った弁護団が裁判官の忌避を申し立てたため,判決の言い渡し期日までは指定できませんでした。しかし,結局忌避は却下されて,弁論が再開されないまま,被告敗訴の判決がされてしまいました。
NHKの言い分や判決では,受信料は「特殊な負担金」であって,放送との対価関係にはないというのです。しかし,受信料を払っている視聴者が,「安倍チャンネル化」しているNHKに何も言えないというのは,いかにも不合理です。NHKは,戦前,「大本営発表」の道具にされ,戦争に加担した経緯がありま
す。この苦い経験から,NHKは,「公共放送」として発足したのです。戦前のような国家による報道統制につながる動きは絶対に許してはなりません。
そこで,今度はMさんが原告になってNHKを被告として,NHKが放送法4条を順守して放送する義務があることを確認するという訴訟を提起しました。
この訴訟は,NHKと受信契約を締結している方なら誰でも参加できます。是非,全国で多くの方が原告となっていただけたらと思います。