弁護士 村田浩治
Q、最近、大阪の高等裁判所で契約社員と正社員の差別を是正するよう命じた判決が出たそうですね。内容を教えて下さい。
A、2016年7月26日、ハマキョウレックスという運送会社に勤める有期契約の運転手さんが、自分の賃金のうち、正社員に支給されている無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当が一年契約の社員に支給されないのは労働契約法20条に違反して無効だと訴えた事件で大阪高等裁判所がこれを不合理な差別だとして差額の支払いを命じました。
これまで契約社員は正社員より待遇が悪くても当たり前だという認識を改めて、有期契約だということだけであきらめないで労働契約法20条を使って差額を請求する裁判があちこちで起こっています。
こうした事件の根拠となっている労働契約法20条は、実は、あまり使いやすい法律とはいえません。
正社員と契約社員の賃金に差がある場合、「労働者の職務の内容や責任の程度」「配置変更の範囲」「その他の事情」などを考慮して不合理なものであってはならないと規定しており不合理だと判断されれば、たとえ契約書をきちんと交わしていても無効になる、と判断しています。つまり同じ仕事をしていたら同じ賃金を支払いなさいよという原則である「同一労働同一賃金」をふまえながら、様々な要素を検討しろというのです。
日本は終身雇用型賃金で、若い時は低いけど、がんばって続けたら給与が上がる慣習があったため正社員と契約社員の差があってもすぐに無効といえず考慮する事情があるというわけです。ですから、同じ仕事をしていて格差があっても、何をもって不合理といえるのか判断が難しく、これまで20条は使いにくいため、なかなか裁判所の判決は出ていませんでした。
大阪高裁の判決は、正社員に出ているのに、一年契約の社員には出ていない手当それぞれについて、事故を起こさなかったご褒美で出すなら正社員と区別する理由はない、作業に応じて出すなら正社員と区別する理由はない。給食手当も食堂を使えない代わりに出すなら正社員と区別する理由はないという具合に不合理だと判断を示して一審判決を変更しました。トラック運転手は仕事の内容は同じな上、新人かベテランかはあまり関係がない仕事ですから、今後は手当だけでなく基本給でも不合理な差がある場合は低い契約は無効(両方が同意したものでも効力がなくなるということ)になるという判断も出てくるかもしれません。
この外、定年後の再雇用になった途端、契約社員となって賃金が下がるという合意を無効とした東京地裁判決とそれをひっくり返した東京高等裁判所の判決が出された長澤運輸判決なども出ております。一度、あなたの賃金も見直してみてはいかがでしょうか。