堺総合法律事務所

 

事件ファイル


パワハラによる自殺 労災と認定

パワハラによる自殺 労災と認定

弁護士 平山正和

 松山市に本社のある中国地方で手広くスーパーやスポーツジムを経営する会社の新居浜にあるスポーツジムのインストラクターとして勤務していた27才の青年が、ジムの責任者である直属の上司によるパワハラが原因で自殺した事件について、今年7月に、新居浜労働基準監督署は詳細な調査を経て自殺後3年目に、労災と認定しました。

 過労自殺、パワハラ自殺を労災と認めさせるのはそう簡単ではありませんが、本件で他の事例に比較して短期間に労災認定を勝ち取ることができたのは以下のような事情があったからです。

 第1に、被害者は自殺する直前に遺書を残していました。その遺書には上司のパワハラ行為が具体的に記載されていました。上司から日常的に面と向かって「つかえん」「仕事をしていない」などと非難され、全人格を否定されたこと、休日、時間外を問わず呼び出され、一人深夜まで居残って仕事をさせられたこともあって、日々仕事に行くのがつらい、上司と顔を合せるのが恐ろしい、自店からの電話すら恐ろしいなど訴えるほど精神的に追い詰められていた心情が赤裸々に綴られていました。自殺前にこのような遺書を綴った青年の無念さは想像を絶します。 第2に、自殺直前の、小馬鹿にした、陰鬱な声で叱責する上司の音声が携帯電話に残されていました。部下を育てる姿勢など皆無であることを示す、否定できない客観的な証拠でした。

 第3に、日常的な被害者に対する上司のパワハラ行為を現認していた同僚が勇気をもって上司の異常な行動を証言するために立ち上がってくれました。

 過労自殺の場合には過剰な労働時間を立証することにより使用者の責任を明らかにすることができますが、パワハラ自殺の場合は加害者の言動は社内の密室で行われる場合が多く、また、ハラスメントは言葉や態度によりますから証拠として残りにくいものであり、立証に困難が伴います。本件では、遺書というアナログデーターとIT技術のデジタルデーターと勇気ある同僚の証言が揃うという

稀なケースであり、労基署はパワハラ行為と自殺との因果関係を認めることができたのです。精神科の有能な医師の協力を得ることができました。

 会社は責任を一切認めようとしませんので、両親は労災申請と並行して、上司と上司のパワハラ行為を見逃した雇い主の会社を被告として、不法行為、債務不履行の責任を追求する裁判を提起しています。受講生から慕われていた被害者から指導を受けた人たちや無念の思い断ちがたい両親の知人などが、公正裁判を求める署名を集めて裁判所に届けたり、裁判の傍聴をするなど、松山では運動が広がり注目されています。被告らの責任を認めさせて、早期に解決することを目指しています。

                以上

 

        


 
 
 
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