堺総合法律事務所

 

事件ファイル


B型肝炎訴訟の現状と課題

弁護士 辰巳創史

1 B型肝炎訴訟とは

  我が国では,昭和23年以降,全ての国民・住民が法律(予防接種法等)によって,幼少期に集団予防接種を強制させられてきました。その際の注射器の連続使用によって,40数万人(国の推計)もの国民・住民がB型肝炎ウイルスに感染させられました。これら感染被害者はこれまで国からの何の救済も受けることなく,将来の発症の不安(キャリア)や,慢性肝炎・肝硬変・肝がんの病気で苦しんできました。これらの被害者が国の法的責任に基づく損害賠償等を求めた裁判が全国B型肝炎訴訟です。

国の責任については,これを認める最高裁判所の判決が5年前の平成186月に出されていました。しかし,当時の原告(北海道の5名)が同じ被害者全体の救済対策を取ることを求めたにもかかわらず,国・厚生労働省はこれを拒否したため,2008年より,全国10地裁で被害者が集団で提訴して戦ってきました。

2 基本合意の成立

苦難の末,提訴後3年を経過した2011628日,国(総理大臣)の正式な謝罪を受けて,基本合意が,国と全国原告団及び私達全国弁護団との間で調印され,成立しました。

基本合意では,①国が責任を認めて正式に謝罪,②和解対象者の認定要件と和解金(病態に応じて50万円~3600万円),③今後の治療体制などの恒久対策についての協議の場の設置等が記載され,国との間で約束されています。

3 今後の課題と運動

(1)被害者の全員救済に向けての個別和解手続

   全国では約1万人,大阪弁護団の担当する近畿及び徳島では約2000人の方が原告となり,そのうち半数弱の方がすでに国との間で個別和解をしています。

   しかし,国の推計では40数万人の方が集団予防接種により感染した被害者であることからすると,被害者全員救済の道はまだまだ遠いものです。

(2)未提訴被害者への本件司法救済制度の周知・相談・提訴による,被害者の全員救済に向けての広範囲の活動

   原告が全国で約1万人にとどまっているのは,そもそも本件司法救済制度が周知されていないことが一つの原因として考えられます。そこで,私たち弁護団は,原告や各地の患者会と協力して医療講演会等を行い,肝炎患者さんに肝炎の正確な知識を得ていただくと同時に,司法救済制度についても知っていただき,個別の相談もさせていただいています。

(3)全てのウイルス性肝炎患者の恒久対策の活動

   和解金が支払われるためには一定の認定要件を満たさなければならず,残念ながら全てのウイルス性肝炎患者が救済されるわけではありません。しかし,基本合意では,今後の治療体制などの恒久対策について協議することも内容となっており,これに基づいて全国弁護団原告団は,厚生労働大臣と協議を行っています。

   20131120日から21日にかけて,全国から約200名の原告弁護団が東京に集まり,国会議員に対して肝硬変・肝がん患者への医療費助成等を求めて要請行動を行いました。

(4)偏見・差別をなくし,本件の真相解明等のための活動

   基本合意に基づき,なぜこのような被害が発生したのかについて検証会議が設置され,提言が出されましたが,さらなる検証が必要な点もあり,今後も継続していかなければなりません。

4 まとめ

 

  以上のように,B型肝炎訴訟は基本合意の成立により終わったのではなく,個別救済も恒久対策も真相究明も始まったばかりです。これからも,ご支援をよろしくお願いします。


 
 
 
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