堺総合法律事務所

 

事件ファイル


医療過誤事件 医師は過ちを素直に認めるべきだ

弁護士 平山正和

 

堺市において循環器医療で著名なB病院で発生した、心臓外科、脳外科の医療過誤事件を報告する。

  不安定狭心症事件

71才の女性患者(A女という)が狭心症による胸痛などの症状を発症して、かかりつけの開業医

がB病院を紹介した。診察の結果、B病院の担当医は4日間の心臓精密検査入院と診断して、入院させた翌日に死亡した。直接の死因は「急性心不全」その原因は「不詳」とされた。

担当医には以下の過失があった。⑴不安定狭心症と診断しなかった。安定狭心症であると誤診したことが、その後の処置の誤り原因となった。⑵不安定狭心症に対する薬物療法をしなかった過失。⑶入院後、心臓カテーテルによる検査、治療を遅延した。⑷不安定狭心症の場合、安静にして突然死を防止すべきであるにもかかわらず、トレッドミルによる負荷検査を実施し、その後1時間余で死亡に至らしめた。⑸狭心症発作でシャワー室で倒れた後発見が遅延した。発見までの時間についてカルテの改竄が疑われた。⑹発作後の心筋梗塞に対する適切な治療をしなかった。

 地方裁判所は、双方の医師の尋問終了後直ちに、過失の存在は明らかであるとの心証に至り、鑑定をすることもなく、B病院に対し強く和解をすすめ原告全面勝利の和解が成立した。鑑定もせずに担当医の過失を認めた解決をするケースは希である。

  くも膜下出血事件

59才の男性患者(C男という)が急性頭痛、嘔吐などの症状を発症し、かかりつけの開業医はB病院を紹介して、B病院担当医は頭部CTなど検査の結果、内頚動脈―後交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血と診断し、動脈瘤頸部を挟んで出血を止める手術をすることとなった。入院当日に手術をし、18日後に死亡した。直接の死因は「くも膜下出血」、その原因は「動脈瘤の破裂」とされた。

 判決が認めた事実は以下のとおりである。⑴くも膜下出血の動脈瘤をクリップする手術は顕微鏡下で実施される難しい手術であるが、健常な後交通動脈を挟む危険があるために、視認するなど確認をする義務があるところ、それを怠ったため健常な後交通動脈を挟み、術後に脳梗塞を発症させた。⑵クリップ後の血流の温存を確認しなかった。⑶術後の脳梗塞発症及びその悪化によるストレスが加わって十二指腸潰瘍による出血を発症させたことと脳血管攣縮が発症したことが死亡に寄与したこと。⑷消化管出血の発症を予防する適切な投薬をしなかった。⑸これらの過失とC男の死亡との因果関係が認められる。以上の事実を認めて、一審、控訴審とも原告勝訴判決をした。このケースは、原告側の協力医のみならず鑑定医も担当医の過失を明確に認めたので、地裁、高裁で裁判官が強く和解を勧めたにもかかわらず、何故か、B病院側が和解に応じなかったため判決に至ったものである。

  B病院は、前のケースでは狭心症について

安定狭心症ではなかったと強く争い、後のケースではクリップにより後交通動脈を挟んだ事実、脳梗塞の発生原因、部位、死亡の因果関係などについて執拗に争った。そのために事故発生後解決までに長期間を要した(前のケースは3年余、後のケースは7年余)。当事者、協力医の辛苦は大変なものである。医師、病院の対応は大いに問題であり、素直に事実を認めて早期に解決するべきであったと思う。両ケースとも、幸い、有能で献身的な協力医に恵まれ、長期にわたり全面的な支援をいただけたことが勝利の要因である。

 

 

 


 
 
 
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