堺総合法律事務所

 

事件ファイル


高裁でふたつ、最高裁でひとつ

弁護士 村田浩治

1、はじめに
 タイトルを見て何のことかと思われたかも知れません。2011年に、三つの労働事件で逆転勝訴が続きました。負けていた事件を逆転で勝つというのは劇的ですが、労働事件が下級審で負けるというのは少し問題です。ぎりぎりで裁判している人にとっては、生活に直結しますから高裁でやろうとか最高裁に行こうというのは大変なことだからです。
 しかし、労働事件に対する裁判所の判断がこれだけ揺れ動いているのです。労働問題に対する裁判官の意識が年々働く人に対する理解が乏しくなっているではと心配です。
2、「労働」契約を否定した仮処分が逆転、解決
 あるトラック運転手のAさんの事件で、指示メールを見落としただけで会社に損害ないのに解雇されたという事件でしたが、その程度で解雇されるのはおかしいと訴えたところ、会社は労働者でないから自由に切れると反論してきました。雇用保険も支給されているのにそんな会社の言い分が通るはずが無いと思っていたら、30歳代の裁判官は、会社の言い分を認めてしまいました。配送地までは自宅からもいけたし(夜中に会社から載って帰るのだが)配送時間の指示はされていないし(配達時間の指示があるのに)、運転ルートまで拘束されていない(普通の運転手もされていないのに)というよう判断でした。
 高等裁判所に不服申立をしたところ、高等裁判所は実情をきちんと把握して実態を理解し、一審が否定した労働者の権利を認め、半年分以上の賃金を支払うよう勧告したため事件は会社が賠償して終了しました。
3、たった一人の整理解雇が有効!?
 20年近く勤務した会社で働いていたBさんは、会社から自主退職するよう迫られました。いわゆる肩たたきでした。納得出来ないと拒否しました。多くの人が自主退職するなかで、退職強要を拒否したのはBさんだけでしたが、会社は退職勧奨ですまぬとなったら整理解雇してきたのです。この件も、仮処分では会社の言い分を認めてしまいますが、高等裁判所は不服申立を認め、差し戻しとなりました。そこで、ようやく、賠償金を支払わせる事が出来ました。
4、労働者として労働組合をつくる権利を認めた最高裁
 2011年に注目された最高裁判決のひとつが末尾年表にもあるイナックスメンテナンス事件です。これは個人事業主契約でも労働組合を作れるという判断を勝ち取れました。東京高裁が否定した判断を最高裁が破棄して労働組合を認めたのです。最高裁で要約勝ち取る事件になってしまいました。
 労働をめぐる裁判は厳しくなっています。格差社会のゆがみは裁判所の判断もゆがませていてせっかくの働くものの権利がなし崩しにされかねないと心配です。労働の問題に多くの皆さんに関心を持ってもらい、裁判官のおかしな判断にも声を上げいかなければなりません。そうしないと格差は固定化し、社会は活性化しないと思います。 


 
 
 
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