弁護士 平 山 正 和
2009年7月24日に提訴した訴訟は学者の献身的な協力を得て、大阪府、堺市(以下行政という)のシャープ立地に対する補助金支出の違法性が鋭く深く解明されています。前号の事務所ニュースで訴訟の内容と意義について報告しましたので、ここでは、訴訟において明らかになったことを踏まえて行政の異常な支援策の実態を報告します。
■新日鐵とシャープのための行政による「地上げ」
大阪府の330億円、堺市の504億円(堺市の発表では240億円)もの膨大な補助金について、シャープの立地による府民市民への経済波及効果があることを公益性の根拠とし合理化しています。しかしシャープのために補助金が支出されたというのは事実に反しています。新日鐵に対する支援でもあったのですが行政は隠していたのです。新日鐵のためであれば本件補助金の公益性を到底認めることができなくなるからです。新日鐵は堺浜において製鉄事業を撤退しましたが、残した工場の敷地と埋立によって取得したぺんぺん草のはえた未利用の空地を所有していました。シャープ立地に際して、行政とシャープだけではなく、新日鐵も最初から最後まで協議に参加していること、その協議のなかで、行政に対して補助金を含む立地支援策がシャープと新日鐵から要求されていたこと、両社の要求を容れて行政は補助金額を決め、さらに後述する巨額におよぶ支援策をとることを約束したこと、行政の補助金の額や支援策の提案と並行してシャープと新日鐵の土地売買契約の交渉がなされ、売買代金が決定されたことなどが明らかになりました。補助金と支援策によって黄金の土地に生まれ変わり、土地代金が高騰したことは容易に推測できることですから、本件補助金はシャープのためと言うよりも、土地売却代金として新日鐵へ還流していると評価されます。それに加えて新日鐵が所有している残りの工場敷地の地価はシャープへの支援策によって高騰しました。補助金やインフラ整備の支援策がシャープ立地のためであると説明しなければ合理化できず合法性の根拠である公益性をもつことができないのですがこの点がまったくごまかしであって、実際は新日鐵の土地の「地上げ」に他ならないという実態が明らかになったのです。
■ 巨額で異常な支援策 行政は、シャープ立地に際して、シャープ門前までだけではなくシャープの敷地の周囲をぐるりと囲む片側2車線の道路、耐震強化岸壁、上下水道、再生水処理施設、高速道路などのインフラ整備に5千億円とも言われる税金を投入し、堺浜整備推進室を設置しに職員を配置して特別のワンストップサービス体制をとったり、また、都市計画法による開発許可をせずに建設を認めたり、至れり尽くせりの支援をしています。これらの支援策はシャープだけではなく新日鐵の利益にもなっています。補助金だけをみるのではなく、巨大私企業のための異常というべきこれらの施策の全体のなかで、違法性の判断をすべきです。 ■シャープ立地に際しての補助金やインフラ整備のあり方は、全国的に見ても異常なものです。そして、操業開始後1年以上経過しているのに、行政は「経済波及効果」について市民に明らかにしていません。シャープ立地によって堺が賑わったとは思えません。巨大私企業のために税金を投入する異常な行政のあり方を問う住民訴訟への支援をお願いします。