堺総合法律事務所

 

事件ファイル


貸金業者の遅延損害金請求は信義則違反とする初の最高裁判決

弁護士 井上耕史

 

一 利息制限法一条は、年一五~二〇%を超える利息を無効としている。しかし、貸金業者は二つの方法によりこの規制の潜脱を図ってきた。一つは、貸金業法四三条により超過利息支払を有効なものとみなすもの(みなし弁済)。もう一つは、利息制限法四条が遅延損害金は利息の二倍まで有効とする規定を悪用し、「支払が遅れたら残元金を一括して支払う」旨の特約(期限の利益喪失特約)を契約書に入れておき、支払期日に一日でも遅れたら残元金の一括払義務があると称して遅延損害金名目で年三〇~四〇%前後の金利を取り続けるものである。
二 自営業者N氏は商工ローン「シティズ」から金利年二九・八%で四〇〇万円を借り、元利金を毎月分割払した。N氏は五回目の返済期日に一日遅れ、その後も期日に遅れて支払うことがあったが、シティズはN氏に一括返済を求めることなく、遅れた日数分の金利だけ付加して分割払を求めるなどしていた。N氏は六年以上にわたり分割払を続け、支払総額は七六九万円余りに達した。
 N氏が過払金返還を求めたところ、シティズは、五回目の支払遅れで期限の利益を喪失し、その後六年間の支払は遅延損害金であり年二九・八%は有効だと言い出した。N氏は落とし穴にはめられたのである。
 そこで私が訴訟を受任し、シティズに提出させた交渉経過記録、償還表や領収書の記載、N氏からの聴取内容を分析した結果、前述した取引実態が明らかになった。
三 訴訟活動が功を奏し、最高裁平成二一年九月一一日判決は、シティズの期限の利益喪失の主張は、誤信を招くようなシティズの対応のために、期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきたN氏の信頼を裏切るものであり、信義則に反し許されない、と判断して当方主張の過払金全額の返還を命じた。
 本判決は、最高裁が平成一八年に貸金業法四三条による高金利の主張を封じたのに続いて、遅延損害金名目での高金利主張も封じて、利息制限法一条による救済を進めた画期的判決であり、全国の高金利被害救済に大きな力となるものである。


 
 
 
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