堺総合法律事務所

 

事件ファイル


シャープへの公金支出をただす住民訴訟

弁護士 辰 巳 創 史

 

 

1 はじめに

  7月24日,シャープへの公金支出をただす住民訴訟を提起しました。原告は,大阪府134名・堺市100名,弁護団は11名です。

  訴状提出後は,記者団を前に記者会見を行いました。後でTVを見てみると,裁判所への入場シーンで,私が思い切り笑顔になってしまっており,ちょっと失敗したなと思っています。

 

2 シャープへの公金支出をただす住民訴訟とは

  シャープへの公金支出をただす住民訴訟とは,大阪府及び堺市が,シャープの堺浜への工場立地について多額の公金支出をすることが違法であるとして,その差止めとすでに支出された公金の返還等を求める住民訴訟です。以下,その詳細を述べます。

 

3 シャープ堺浜工場の立地

  2007年7月31日,シャープ株式会社(以下,「シャープ」といいます。)は,堺浜(大阪府堺市)に新工場を建設すると公式に発表しました。

  シャープ堺浜工場は,敷地面積127万平方メートルで,投資額は,土地代を含めて約3800億円です。2007年11月に着工し,2010年3月の製造開始が目標とされました。

  シャープ堺浜工場は,発表時点で世界最大の大型テレビ用液晶パネルの生産をおこない,同じく世界最大の太陽電池工場を併設し,同一敷地内に関連するインフラ施設や部材・装置メーカーの工場を「フルセット」で誘致する「21世紀型コンビナート」と呼ばれる生産形態をとることとしています。

 

4 大阪府知事による補助金交付決定

  シャープ工場の堺浜への誘致が俎上に上がった2007年4月に,大阪府議会は,大阪府企業立地促進条例を改正し,補助金の上限を1社につき30億円から150億円に引き上げました。

  シャープが堺浜に新工場を建設することが決定すると,大阪府知事は,上記条例に基づいて,シャープとその関連企業に対して,以下の補助金交付決定を行いました。

①2007年12月 シャープ          136億円

②2008年 1月 コーニングジャパン株式会社  35億円

大日本印刷株式会社      37億円

③2008年 2月 凸版印刷株式会社       36億円

                          計244億円

  なお,交付決定金額は,現時点で内容が確定している投資金額に基づいたもので,シャープへの交付金額は,最終的に150億円となる見込みです。

  また,大阪府は,シャープ堺浜工場の関連では,総額330億円の補助金枠を設けています。

 

5 堺市長によるシャープなど関連5社に対する減税措置

  2008年4月,堺市長は,堺浜において展開されているコンビナートのうち,シャープなど関連5社を堺市企業立地促進条例の対象に認定しました。

  上記条例の対象に認定されると,市税(固定資産税,都市計画税,事業所税)が軽減されます。

  今回の認定では,減免の対象となる投資総額は約5500億円を見込んでおり,10年間の減免額合計は240億円にも上ります。

 

6 LRTの敷設計画

  LRT(ライトレールトランジット)は,次世代型路面電車とも呼ばれ,環境にやさしい公共交通として注目されています。

  堺市では当初,市の東西を結ぶ公共交通機関が路線バスのみであったことから,地域の活性化を図るためとして,「堺東駅─堺駅間」のLRT路線が計画されていました。

  その計画自体,堺市民の間で異論があるにもかかわらず,そこに堺駅からシャープ工場が立地する堺浜まで敷設する「堺駅─堺浜間」の路線が計画に加わりました。この計画によれば,280億円の公金を支出することになります。

 

7 大阪府・堺市の補助金の交付等の違法性

  地方自治体の交付する補助金等の交付に関しては,地方自治法232条の2に,「普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と規定されており,公益上必要性がある場合に限られています。

  また,不均一課税は地方税法第6条2項の規定に基づいて行っている税の軽減措置であるところ、同条項によれば、「地方団体は、公益上その他の事由に因り必要がある場合においては、不均一の課税をすることができる。」と定められており,やはり公益上の必要性がある場合に限られています。

  したがって,公益上の必要性が認められない補助金の交付及び不均一課税(以下,「補助金の交付等」といいます。)は,違法であると評価されます。

(1)交付の目的・趣旨に公益性がありません

   大阪府・堺市のシャープに対する補助金交付等の目的は,条例において,「企業立地を促進し,誘導すること」であるとされています。

   しかし,企業の立地選択の重要な要素としては,補助金の交付はわずかな比重しかありません。シャープが堺浜に立地した動機は,シャープの本社機能と亀山工場などとの連携,関西空港や道路網など交通・搬送上の条件,労働者確保の条件などの経営,営業の諸条件を総合的に判断して,堺浜が適切であったからです。

   したがって,補助金交付とシャープ立地との間には必ずしも因果関係がなく,交付の目的・趣旨に公益性は認められません。

(2)公金支出と住民との利益との間の因果関係が明らかではありません

   シャープ立地に際して,膨大な公金を支出する根拠は,シャープの進出が,「雇用機会および事業機会の拡大」「地域経済の活性化」をもたらすこと,つまり「波及効果」論です。

   しかし,大阪府・堺市が公表している波及効果についての説明は趣旨や根拠が不明確で,シャープ立地によって,住民にいかなる経済的利益をもたらすのか具体的に明らかにされていません。

(3)公金支出は,大阪府・堺市の財政規模,状況に照らして不適切であり,緊急の必要性もありません

   大阪府は,現在5兆円もの借金をかかえて,財政再建をすると称して,府民の福祉,教育,文化,生活に関連する予算を,1100億円も削減しようとしている最中であり,今後もこのような削減が続けられようとしている状態です。具体的には,年間わずか2億円の負担である国際児童文学館(吹田市)を廃止したり,上方演芸資料館「ワッハ上方」,大阪センチュリー交響楽団,男女共同参画推進財団,非常勤講師などの予算を削減しました。

   また,堺市の財政状態も決して良くはありません。具体的には,国民健康保険料,介護保険料は共に政令指定都市の中で一番高く,水道料金,下水道料金も全国で2番目の高さです。

   このように住民に痛みを押し付ける一方で,莫大な利益をあげている世界的企業であるシャープに対して膨大な公金支出をすることは,財政的に相当性を欠いています。

  以上のように,シャープ立地にともなう補助金の交付等に公益上の必要性は認められず,違法であることは明らかです。

 

8 求める判決

  以上から,原告らは,地方自治法242条第1項の規定に基づき,大阪府知事に対しては,補助金の交付の差止め及びすでに支出した補助金の返還請求を,堺市長に対しては税の軽減措置の差止めとLRTへの公金支出の差止めの判決を求めています。

 

9 おわりに

  最初,私が,住民の方と事務所の先輩弁護士から,このシャープの公金支出の問題を聞いたとき,この問題が本当に法的に問題に出来るのだろうかと,正直言って半信半疑でした。しかし,住民の方々の怒りと熱意に後押しされる形で,住民監査請求,住民訴訟と進めることができました。住民訴訟提起の記者会見をしながら,よくここまで来たなと感慨深いものがありました。

  しかし,たたかいはこれからです。私たちは理論的にも,運動的にもさらに武装していかなければなりません。みなさんの協力が必要です。私たちの訴訟に共感していただける方は,少しでもお手伝いください。よろしくお願いいたします。

以上

 


 
 
 
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