弁護士 井上耕史
第1 事件の概要
1 当事者
今回の事件の舞台B社は,A社の100%子会社で,A社のみを荷主とし,B社の代表取締役その他の役員は,ほとんどA社から送り込まれた役員・従業員であった。いわばB社はA社の運輸部門に過ぎなかった。
B社ではたたかう労働組合員が職場の多数を占めており,組合は労働条件決定に大きな影響力を持っていた。
2 ①親会社A社の団交拒否
2000年9月,子会社B社は,親会社A社による運賃切下げによる赤字という理由から,労働条件の大幅引下げを提案してきた。組合は,荷主にあたる親会社のA社による運賃切下げが最大の原因であり,子会社のB社だけでは解決できない問題であるととらえ,A社に対し団体交渉を申し入れたが,A社は使用者でないという理由でこれを拒否した。
3 ②C社への全株譲渡,不誠実団交
組合がA社に対して団体交渉を求め地方労働委員会の救済申立の準備を進めてきた矢先である2002年4月14日,A社は,B社につき2億7000万円もの増資をした上で,A社の下請運送業者であるC社にB社全株式をわずか300万円で譲渡した。新親会社C社の代表取締役が子会社B社の代表取締役を兼任するようになった。
その後,B社と組合の団体交渉の際に,B社は具体的根拠を示さないまま労働条件の大幅引下げに固執するなどの不誠実な態度をとり続けた。
4 ③C社による子会社の偽装解散・組合員18名の解雇
新親会社C社がB社の全株式を譲り受けて5か月も経たない2002年9月1日,C社は,労働条件引下げに組合の協力が得られないことを口実として,子会社B社を解散し,B社労働者のうち組合員以外の労働者をC社に再雇用(ただし,労働条件はB社に比べて大幅に悪い。)し,組合員18名を解雇した。C社は解散したB社の財産及び業務をそのまま引き継いで,自らのシェアを拡大することに成功した。
組合員はB社の建物を組合事務所として使用し泊り込んでの抗議行動を行っていたが,C社は深夜,組合員の寝込みを襲い,建設重機で建物を破壊した。
第2 組合・弁護団のたたかい
組合側は,①②③各事件につき大阪地方労働委員会へ救済申立てを行うと共に,大阪地裁堺支部に,子会社B社及び親会社C社に対する地位保全・賃金仮払いの仮処分申立てを行った。仮処分事件の争点は,会社解散・組合員解雇が不当労働行為にあたるか,及び親会社かつ事業を承継したC社に雇用責任が認められるかであった。この種事案は勝つには容易ではないが,本件偽装解散はあまりに卑劣かつ露骨であったために,裁判官の心証もC社に雇用責任を認める方向に傾いていったように思われた。
同時に,組合は,事実上全てを支配する荷主A社の責任を追及するため,連日,本社前で抗議宣伝行動を行うと共に,取引先,業界団体及び監督官庁への指導要請等も行った。これが功を奏し,紛争解決への機運が生まれた。
そして,2003年2月18日,組合員18名に対する解雇撤回・賃金支払い,希望者全員のC社への再雇用,和解金の支払等を内容とする勝利的和解を成立させることができた。
第3 本事件の意義
本事件は,親会社が自らの支配力を利用して子会社の労働者を圧迫しながら,使用者責任を取ろうとしない,という法人格濫用の弊害が顕著に現れた事件といえる。
それに対し,弁護団の法廷闘争と組合の運動の力で,解雇から半年足らずで解決し,法人格を濫用した親会社に使用者としての責任を取らせることができた。
本事件は,当事務所の村田弁護士に誘われて,私が弁護士登録後初めて取り組んだ労働事件であり,その後の活動の原点となっている。
以 上