弁護士 井 上 耕 史
一 ダイキンによる雇止め
ダイキン工業は,大阪市に本社を置き,空調機,空気洗浄機及び大型冷凍機の製造等を事業内容とする大企業である。堺市には,ダイキン堺製作所の臨海工場と金岡工場とがある。
かつて,業務請負会社が雇い入れた労働者が空調機の製造業務に就労していた。製造ラインには請負会社を異にする労働者及びダイキン社員が混在し,組長と呼ばれるダイキン社員から指揮命令を受けて就労しており,いわゆる偽装請負の状態であった。朝礼や安全活動も,ダイキン社員,請負社員の区別無く実施されていた。
ダイキンは,平成一九年一二月,大阪労働局から労働者の雇用の安定を図ることを前提に違法状態を解消するよう是正指導を受けた。これを受けて,ダイキンは,平成二〇年三月一日から,本件の原告らを含む四九四名の請負社員を有期契約で直接雇用した。しかし,その契約形態は,当初六か月,その後一年,一年の更新で,最長が二年六か月であり,三回目以降の更新はしないというものであった。
ダイキンは,平成二二年二月以降,二四〇名以上を新たに有期契約で雇用して労働者に引継ぎをさせる一方,契約期間の満了となる同年八月三一日をもって,二〇三名もの有期契約労働者を雇止めにした。すなわち,有期社員の大量入替えが行われたのである。
これに対し,ダイキンの雇止めは無効として,四名の労働者が大阪地裁に提訴した。
二 雇用ルールの脱法行為は許されない
経営上の理由による解雇については,「整理解雇の四要件」(①人員整理の必要性,②解雇回避の努力をしたこと,③人選の合理性,④手続の合理性)と呼ばれるルールが確立されている。有期雇用の場合も,契約が反復更新されている場合や雇用継続の期待がある場合などにはこのルールが適用される。
しかし,ダイキンは,有期契約を更新しない旨説明したから期間満了で雇用終了というのである。このような雇止めがまかり通るならば,雇用のルールは骨抜きになってしまう。
本件の原告らは,既に六年ないし一八年にわたりダイキンで偽装請負状態で就労していたのであり,是正措置の際にダイキンは労働者の雇用の安定を図るべき義務があった。しかも,ダイキンの業績は好調であって,新たに二四〇名もの労働者を雇い入れており,およそ人員整理の必要性がない。熟練労働者の首を切って労働者を入れ替えるのであるから,企業活動としての合理性もない。ダイキンの雇止めは,雇用ルールの脱法行為であることが明白であり,無効である。
偽装請負の摘発が行われた際に,受入れ企業側では大量の労働者を有期雇用で直接雇用しているが,その際にダイキンと同様の手法が用いられ,現に,少なくない企業で期間工の大量雇止めが行われている。焦点は,「派遣切り」から「期間工切り」に移行してきている。
この訴訟は全国的にも注目され,マスコミ各社も一斉に報道している。支える会の結成,地元堺からバスを連ねての傍聴のなど,支援の輪も大きく広がっている。にかけつけている。今後より一層の大きなご支援をいただきますよう,お願いいたします。