弁護士 平 山 正 和
最近取りあつかった事例の中から3件を紹介し、問題点を指摘して参考に供したい。
某総合商社が販売し、某ゼネコンが建築した400戸を超える大規模な分譲マンションに、建築後間もなく、壁、床、ベランダ、廊下天井など多くの部分にコンクリートのクラックが生じた。建築士が調査した結果、その原因は竣工図では入れられているはずのひび割れ補強鉄筋が施工されていなかったこと、コンクリートの鉄筋被り厚さが不足していたこと、ひび割れ防止のための目地が適切に設置されていなかったことなどにあった。
業者は当初はひび割れ補強鉄筋は図面とおり施工していると主張していたが、証拠書類を提出することを求められるや、拒否するという不誠実な対応とり、原因について専門業者として調査をする姿勢もなかったので、住民は裁判所へ建築紛争調停を申し立てて、裁判所を舞台に解決をはかることとした。その結果、業者側はついに、ひび割れ補強鉄筋をまったく施工していないことを白状するに至った。しかしながら、依然として責任を認めようとしない頑な態度を継続したが、裁判所の調停に応じて、ひび割れを補修するに足る補償金を支払う内容で解決した。
建て売り業者が販売した木造住宅が建築間もなくより雨漏りが発生した。別の弁護士が入って2度にわたる調停によって補修をしたものの、10年近く経過しても雨漏りはやまなかった。その際には建築家の調査をしないままに処理していたので、原因を突き止めて適切な対策がとられなかったことが問題解決につながらなかった理由であった。改めて、建築家に調査をしてもらった結果、ベランダの防水処理が不適切であったことに加えて、建築基準法にしたがった筋交いの設置がされておらず、また筋交いが金具によって適切に固定されていないという、住宅の安全性にかかわる新たな欠陥があることが発見された。
幸い、零細ではあるが地元で比較的永く建築業を営んできた業者であったから、協議の結果、建築士の指摘した欠陥を認めて補修することを了解した。筋交いを入れる場所、筋交いを固定する工事、防水処理をする場所、防水材料の特定、外壁、内装をやり直す工事、など補修工事の仕様を詳細に合意したうえで、買主側の建築士の監理のもとで、建築士の指示にしたがって補修させることにより、10年近く経過した段階で、外壁、内装ともリフォームをさせて安全性、雨漏りを含めて欠陥を除去して解決した。
某大手ゼネコンが建築した鉄骨鉄筋コンクリートの10階建てのビルを、施主から取得したところ、建築後数年しか経過していないにもかかわらず、壁面に多数のクラックが発生し、貫通して雨が浸透していることが発見された。専門の調査会社や建築士に、コンクリートのコアを抜くなどして、膨大な調査をしてもらった結果、ジャンカやレイタンスやゴミなどが打継ぎ部に堆積しているなど、コンクリートの施工が杜撰であることが次々に明らかにされた。コンクリートの日本的権威の研究者の協力を得ることもできて、建物の耐震性能の安全性にも問題があるとの意見書も得ることができた。
ゼネコンは中古ビルを取得したのであるから、責任はないとの態度を一貫してとり続けて、誠意のかけらも見せなかったために訴訟を提起したが、訴訟のなかでも法律論に終始した。
裁判所が鑑定をした結果、原告が主張する瑕疵を全面的に認めたことに加えて、耐震性能について構造計算をやり直した結果、設計図とおりの施工がなされていないこと、施工実態に基づいて構造計算をすれば、コンクリートのクラックなどの瑕疵を補修しないままではもちろん、補修した後でも耐震性能に瑕疵があるとの鑑定結果がだされるにおよんだ。この鑑定結果に驚いたゼネコンは、それまでの不誠実な態度を豹変させて、謝罪とともに誠実に解決したい旨の代表者の文書を原告に送付してくるに及んだ。
したがって、被害者は有能でかつ経験をもつ建築士との協力関係にある弁護士と相談をして、建築専門家の目から見た瑕疵の内容を調査し法律的に責任追及の理論に乗せる作業が、建築業者の責任を追及するためには必須のこととなる。
業者が技術的に信頼に足る場合には、被害者側の信頼できる建築士の指導のもとで補修の仕様を疑問の余地がないほど明確に特定して合意し、かつ、その建築士の全面的監理のもとで補修工事を施工させることにより、解決しやすい場合がある。
示談による解決ができず、訴訟に至る場合、大阪地裁では建築紛争部が担当する。調停委員に建築、土木の専門家が調停委員になるシステムをとっているが、その調停委員が業者寄りになりやすいという大きな問題を抱えていることに注意をしなければならない。