弁護士 村 田 浩 治
入札を理由に使用者としての責任逃れは許されない!
—大阪府労委が岸和田貝塚清掃施設組合に団交を命じる—
弁護士 村 田 浩 治
2009年2月10日、大阪府労働委員会は、地方公共団体に対し、入札を理由に解除となった受注先民間企業の従業員らでつくる労働組合の団体交渉に応じることと謝罪文を交付することを命じた。
昭和44年9月に、岸和田市と貝塚市がその一般廃棄物の処分をするため地方自治法上の特別公共団体たる岸和田市貝塚市清掃施設組合(以下「団体」という)が設立された。団体は、岸和田市貝塚市清掃工場(以下「現清掃工場」という。)を運営し、岸和田市民・貝塚市民の一般ゴミの他、一般産業廃棄物の処理をすることを事業としていた。しかし実際に、この業務を担っていたのは、実は、団体が委託していた民間会社の協和メインテナンスの社員たちだった。社員たちは、1970年代に職業安定法違反の摘発をきっかけに全国一般労働組合を結成し、ながらく団体とも賃金を含む労働条件改善の交渉を続けてきた。 実際は、「業務委託」という形態でありながら、団体の職員が直接仕事の指示をし、社員らはほとんど清掃工場の労働に組み込まれてきた。新工場稼働に伴って随意契約が入札に変更され、約40年間にわたり岸和田市貝塚市のゴミ焼却場の業務を担ってきた協和メインテナンス株式会社は受注を逃した結果、専門性もなく他の自治体の受注も持っていない会社は、2006年12月、社員全員の解雇を表明した。40年近くも職員同様の扱いを受けてきた社員と労働組合は、入札に先立って、大阪労働局に対し労働者派遣法違反状態が継続してきたことを根拠に是正申告を行い救済を求めた。
申告に対し、大阪労働局は、2006年10月16日、団体に対し雇用の安定を図るための措置をとることを前提に適法な状態にするよう是正指導を行ったが、団体は、契約書の手直しなどをしただけで、社員らの雇用安定の措置をとらなかった。労働組合は団体の使用者責任を問い、雇用の安定をはかる措置をとることを求めて団体交渉申し入れたが、団体は「使用者ではない」として交渉申し入れを拒否した。
(1)協和の労動者は、ほぼ完全に団体の業務に組み込まれていた。 そもそも団体と会社の契約書に「作業の実施にあたっては団体の指示に従うこと」と明記されていた。契約書では、委託業務の内容として「委託者において指示する事項」と挙げられており指示が委託の内容であることがストレートに表現されていた。
(2)団体は、協和メインテナンスの社員の班編制や人員配置、労働時間など管理し、場合によっては配置変更を指示していた。
(3)団体職員と協和メインテナンス社員が会合する技術会議が週1回開催され、そこで週間予定の細かな確認が行われ、行事予定、ゴミ投入の停止時間の確認、ダイオキシン測定の指示など、詳細な指示がされていた。
(4)団体職員は、毎日、工場内の点検を行っていた。故障箇所や施設内の不具合を発見すると、社員らに直接に指揮命令して修理・補修を行わせていた。また、社員らも点検を行い故障箇所などを発見した場合には、故障報告書を団体に提出し、団体職員の指示を仰ぎ、夜間に故障が生じて協和の社員では補修できない場合には、団体職員の自宅・携帯等に電話連絡して指示を仰いでいた。
(5)日常的な業務の指示は、中央制御室で行われていたが、中央制御室にいる協和社員に対し、団体職員による日常的な指揮命令がされていた。例えば、省エネ・節電対策のための細かな指示がなされ、週に2〜3回、多いときは毎日のように「(ゴミの)トン数はいくらか?下げろ!」といった指示が制御室でされていた。 各作業担当への指示は、日常茶飯事であり、特にゴミの受け入れ場所では、持ち込まれたゴミの中に持ち込み禁止物がないかの点検など団体職員と協和社員が混在し作業に従事していた。
(6)労働条件の決定
また、協和社員の賃金は、毎年人事院勧告をうけて改定される市職員の賃金増加額を考慮し、協和の労働者の賃金を反映した委託代金が決定されていた。団体が実質的に協和社員の賃金額を決定していた。
府労委の命令は、労組法上の使用者性に関して、従来の最高裁判例を踏襲し、「雇用主だけには限らず、労働者の基本的な労働条件に関し、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することが出来る地位にある者」との判断を示し、本件では「業務委託契約に基づいて労働する場合と異なり」団体が社員の基本的労働条件に関して現実的かつ具体的に支配決定出来る地位にあったかどうかにつき、「旧工場」での就労実態に即して判断するとした。
そして、前記の就労実態にあることをほぼ認め団体が「社員の採用そのものや社員数の決定に影響力を持っていたこと」「社員の配置や勤怠状況について把握を行っていたこと」「勤務時間も左右することが出来る立場にあった」ほか会議や日々の報告書を通して「実質的に、協和従業員の採用、配置、労働時間など、基本的な労働条件を左右できる立場にあった」と判断した。 また、団体が発行した記念誌に「社員が団体と一体となって業務遂行にあたていた」旨の記載もあるとして、社員も団体の指揮下にあると認識していたとして、団体の「地方自治法上、業務委託先の業者に対する委託契約の適正履行の確保のための監督検査に過ぎなかった」という主張を否定し、監理監督の域を超えていたと認定した。
さらに、総合一般入札によって委託契約を決定するとしたことと協和による解雇との関係について、「約40年にわたり、具体的な指揮命令の下に、協和従業員に日々の業務を遂行させたいた」団体には、「社員の責に帰すべき事由以外の事由によって協和から解雇されるような場合にあっては、当該協和従業員の新たな就業機会の確保を図ることが求められる場合もあり得ると解する余地がある」との判断を示した。
そして、社員に対し協和の就業規則が適用されていたことや昇給に関して社員は協和と交渉していたこと、解雇予告手当等が支払われていたことなどは、「形式的に協和と雇用関係にあることにより生じたものとみるべきであって、このことをもって……労組法上の使用者にあたらないと言うことは出来ない」とした。
本件は、一般競争入札の結果、会社の受注がなくなったことを直接の理由とした解雇事件であるが、こうした場合でも40年にわたって実質的に指揮命令をしてきた実態があったことや、大阪労働局からも「雇用の安定をはかる措置をとる」旨の指導がされていることなどから、公共団体といえども民間の労働者を実質的に指示し、その就労に深く関わってきた以上、入札の結果だとして逃げることは許されないとの判断を示し、すでに新工場が稼働した後であっても「従業員の雇用の安定をはかるための団体交渉」に応じる義務があるとの判断を示した点で画期的である。
同時に現在、長年にわたる違法な就労の後にそれにほおかむりをして派遣切りがされることが横行している現在の雇用情勢の中で、官民を問わず、派遣先に対し使用者責任を追求して団体交渉を求めている労働組合運動に大きな希望と武器を与える命令である。 そして協和の社員らが、現在も大阪地裁堺支部において清掃施設組合に対し労働契約上の地位確認を求めている訴訟にも大きな影響を与えるものと確信する。
(弁護団は私の外、山﨑国満、岡本一治、四方久寛、佐藤真奈美の5名である。)